嗅覚障害とは?
においをまったく感じない状態を嗅覚脱失、においを部分的に感じにくい状態を嗅覚低下といいます。
鼻のいちばん上の嗅裂と呼ばれる場所に、においを感じる細胞(嗅細胞)があります。においの分子がここに届くと、神経を通じて脳でにおいとして認識されます。この流れのどこかに問題が起こると、嗅覚障害になります。
においがわからないと味もしない?
嗅覚脱失のある人の多くは、塩味、甘味、酸味、苦味は感じることができます。しかし、食べ物ごとの細かな風味の違いはわからなくなります。
風味を区別する力は、舌の味覚ではなく、実は嗅覚によるものです。そのため、においを失った人は「味がわからない」「食事を楽しめない」と訴えることがよくあります。
嗅覚障害の主な原因
- かぜやインフルエンザなどのウイルス感染:嗅細胞そのものが傷つくと、しばしば高度の嗅覚障害になります。においを失った人の最大4分の1は、インフルエンザが原因と考えられています。COVID-19の初期症状として起こることもあります。
- 頭のけが:若い成人に多く、自動車事故などで嗅覚の神経が傷つくと、においが長く失われる原因になります。
- 鼻の病気:アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、鼻茸、鼻中隔弯曲症などで、においの分子が嗅細胞まで届かなくなります。
- 脳の病気:高齢者ではアルツハイマー病などが原因になります。
- そのほか:一部の薬、がんの放射線治療、生まれつきなど
加齢でもにおいを感じる力は落ちていきます。一般的に60歳までに変化に気づき、70歳を過ぎると変化がかなり大きくなります。
すぐに受診すべきサイン
- 最近、頭を打った
- 筋力低下、バランスの問題、見る・話す・飲み込むことの難しさなど、神経の症状がある
- 症状が突然始まった
- COVID-19の人と接触した
これらのサインがあれば、すぐに受診してください。それ以外の場合も、都合のよいときに受診しましょう。
診察で確認すること
医師は、いつ、どのように始まったか、かぜやインフルエンザ、頭のけがの前か後か、どのくらい続いているかを尋ねます。鼻水や鼻づまりの有無、鼻水があればその性状も確認します。
- 副鼻腔の病気、頭のけがや手術、アレルギーの経験
- 使っている薬や、化学物質・ガスにさらされた経験
- 物忘れなどの精神状態の変化や、物が二重に見える、話しにくいなどの神経の症状
診察では鼻の中を観察し、腫れや炎症、鼻水、ポリープがないかを確認します。
においの検査と画像検査
- 簡単なにおいの検査:せっけんやコーヒーなど身近なにおいを、片方の鼻ずつかいで何のにおいかを答えます。
- 市販の検査キット:いくつかのにおいを当てる方法や、においを薄めていき、どの濃さで感じなくなるかを調べる方法があります。
- 画像検査:明らかな原因がない場合は、腫瘍や骨折などがないか、副鼻腔を含めてCTやMRIで調べます。
日本では、いくつかの違ったにおいを異なる濃さでかいで程度を判定する検査や、においのある注射薬を使う検査などが行われます。

嗅覚障害の治療
治療の基本は、原因となっている病気の治療で、鼻の処置、薬、手術などが行われます。
- 副鼻腔炎などの鼻の病気:蒸気の吸入、点鼻薬、抗菌薬、ときに手術で治療します。ただし、治療がうまくいっても、においが必ず戻るとは限りません。
- 鼻茸:切除することで、においが戻ることがあります。
- ステロイドの点鼻:効果的ですが、長く使うと副作用が出ることがあるため、主治医の指導に従って使います。
- 喫煙者:禁煙するようにします。
においを失った状態そのものを治す治療法はありません。
においがわからない間の安全対策
- 煙感知器:どの家庭でも大切ですが、煙のにおいに気づけない人には欠かせません。
- 食品とガス:食品の傷みやガス漏れに気づきにくいため、保存しておいた食品を食べる前や、料理や暖房でガスを使う前は特に注意します。
- 食事の楽しみ:においが少し残っている人は、香りの強い調味料を加えると食事を楽しみやすくなることがあります。
出典によって異なる点:嗅覚トレーニング
MSDマニュアル家庭版は、原因の病気を治療したあとは、においを失った状態そのものを治す方法はないとし、安全対策や食事の工夫を中心に説明しています。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、原因の治療に加えて、ステロイドの点鼻が効果的だとしています。
ウイルス感染のあとの嗅覚障害の治療を検討したレビュー(Huraら、2020年)は、36件の研究(2,183人)をまとめ、毎日いくつかのにおいをかぐ嗅覚トレーニングを推奨できる治療としました。ステロイドの短期間の使用は、副作用のリスクを慎重に考えたうえで、一部の人に選択肢になるとしています。ほかの薬については、質の高い研究が少なく、推奨できる段階にはないとしています。
かぜのあとなどにおいが戻らない場合は、嗅覚トレーニングについても耳鼻咽喉科で相談してみましょう。

嗅覚障害のポイント
- 嗅覚障害は、においの分子が嗅細胞に届かない、または嗅細胞や神経が傷つくことで起こります。
- においを失うと、食べ物の風味がわからなくなり、味がしないと感じます。
- かぜやインフルエンザ、頭のけが、鼻の病気、加齢などが主な原因です。
- 頭のけがのあとや、神経の症状を伴う場合は、すぐに受診してください。
- 治療の基本は原因の治療で、鼻茸の切除などでにおいが戻ることもあります。
- 煙感知器を使い、食品やガスに注意するなど、安全対策が大切です。
嗅覚障害についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
においがわからないと味もしなくなるのはなぜですか?
塩味や甘味などは舌で感じますが、食べ物ごとの細かな風味の違いは嗅覚で感じています。そのため、においを失うと味がわからないと感じます。
かぜのあとににおいが戻らないのはなぜですか?
かぜのウイルスなどで、においを感じる細胞自体が傷つくと、しばしば高度の嗅覚障害になります。
年をとるとにおいは弱くなりますか?
はい。においを感じる細胞が減り、一般的に60歳までに変化に気づき、70歳を過ぎると大きく変化します。
どんな検査をしますか?
身近なにおいや検査キットでにおいの程度を調べ、鼻の中を観察します。明らかな原因がない場合は、CTやMRIで調べます。
嗅覚障害は治りますか?
原因の治療でにおいが戻ることもありますが、必ず戻るとは限りません。鼻茸が原因なら、切除で回復することがあります。
嗅覚トレーニングは効果がありますか?
ウイルス感染のあとの嗅覚障害について、研究のレビューでは嗅覚トレーニングが推奨できる治療とされています。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 嗅覚の喪失
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 · 鼻の病気
- Hura N, et al. Treatment of post-viral olfactory dysfunction: an evidence-based review with recommendations. Int Forum Allergy Rhinol. 2020
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。

