PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは?
恐ろしい出来事を体験すると、多くの人に長く続く影響が生じます。その影響が長引き、強く、生活に支障をきたすようになった状態がPTSDです。現在の診断名では「心的外傷後ストレス症」とも呼ばれます。
PTSDは、約9%の人が子どものころを含めて生涯のどこかで発症し、1年間では約4%の人が経験するとされています。
症状は1か月以上続きます。出来事の直後の強いストレス反応(急性ストレス症)から続いて起こることもあれば、出来事から最長6か月ほどたってから現れることもあります。慢性のPTSDは、治療しなくても時間とともに軽くなることが多い一方で、社会生活、仕事、人間関係に重い支障が続く人もいます。
PTSDの原因となる出来事
PTSDを引き起こしやすいのは、恐怖や無力感、戦慄を感じるような出来事です。
- 戦闘
- 性暴力
- 自然災害や人による災害
- 身体的な暴力、交通事故
こうした出来事は、自分が直接体験した場合だけでなく、誰かが重いけがをしたり亡くなったりするのを目撃した場合、家族や友人に起きたことを知った場合、救助や災害対応などで他人のトラウマに関わった場合にも、PTSDの原因になります。
同じ出来事を経験しても、なぜPTSDになる人とならない人がいるのかはわかっていません。
PTSDの4つの症状
- 侵入症状:出来事が望まない記憶や悪夢としてくり返しよみがえります。単に思い出すのではなく、今まさに起きているように感じる「フラッシュバック」が起こることもあります。出来事を思い出させるものに強く反応することもあります。
- 回避症状:出来事を思い出させる場所、人、活動を避けたり、出来事について考えたり話したりすることを避けようとします。
- 考え方や気分の悪い変化:出来事の大事な部分が思い出せない、感情がまひしたように感じる、人から切り離されたように感じる、自分や他人を責める、罪悪感(自分だけが生き残ったなど)、楽しみや幸福感を感じられないといった変化がみられます。
- 覚醒と反応の変化:眠れない、集中できない、危険のサインに過敏になる、ささいなことで驚く、怒りを爆発させる、無謀な行動をとるといった変化がみられます。
うつ病もよくみられ、症状を和らげようとしてアルコールや薬物に頼り、依存症になる人も少なくありません。

解離型のPTSD
PTSDには、「解離型」と呼ばれるタイプもあります。上の4つの症状に加えて、次のような体験がみられるものです。
- 離人感:自分の体や考えから、自分が切り離されているように感じる
- 現実感の消失:周りの世界が現実ではない、夢の中のように感じる
また、不安を和らげるために儀式のような行動をつくり出す人もいます。たとえば、性暴力を受けた人が、汚れたという感覚を消そうとして何度も入浴をくり返すことがあります。
PTSDの診断
PTSDは、医師が診断基準にしたがって、次のような点を確かめて診断します。
- トラウマとなる出来事を、直接または間接的に体験している
- 症状が1か月以上続いている
- 症状が強い苦痛を引き起こしているか、日常生活に大きな支障をきたしている
- 侵入症状、回避症状、考え方や気分の変化、覚醒と反応の変化のそれぞれがいくつかみられる
症状が薬やほかの病気によるものでないかも確認します。PTSDは症状がさまざまで複雑なうえ、本人がトラウマについて話したがらないことも多く、見逃されやすい病気です。うつ病や依存症などに注意が向いて、PTSDが気づかれないこともあります。
セルフケア:安全・体の健康・マインドフルネス
トラウマを体験している間やその後は、セルフケアがとても重要になります。
- 安全の確保:自分と大切な人が安全だとわかることが、経験を受け止めていく土台になります。
- 体の健康:食事、睡眠、運動のリズムを保つようにします。アルコールや鎮静作用のある薬は控えめにします。
- 日々のスケジュール:起きる、シャワーを浴びる、着替える、散歩する、決まった時間に食事をとるといった日課を立てて守ります。
- 気分転換:絵を描く、映画を見る、料理をするなど、なじみのある趣味や楽しめる活動をします。
- 体と呼吸:ストレッチや運動のほか、静かに座って呼吸を数えるなども役立ちます。
- 人とのつながり:地域や周囲の人とのつながりを保つことが大切です。

治療①:心理療法
PTSDでは、心理療法が治療の中心です。初めのうちは、PTSDの症状について本人と家族が理解することがとても役立ちます。
- トラウマに焦点を当てた認知行動療法:PTSDに最も効果的な治療とされています。ストレスへの心と体の反応を学び、出来事についての考え方を見直し、安全な形で出来事の記憶に向き合っていきます。
- 曝露療法:治療者の支えのもとで、トラウマに関係する状況を思い浮かべるなどして少しずつ向き合い、出来事から続く恐怖を和らげていきます。
- EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法):治療者の指の動きを目で追いながら、トラウマの場面を思い浮かべる治療法です。効果は主に、記憶に向き合うこと(曝露)によるものと考えられています。
- ストレス管理:呼吸法やリラクセーション、ヨガや瞑想などが症状を軽くすることがあります。
恥ずかしさや孤立感に苦しむことの多いPTSDの人にとって、温かさや安心感、共感を示してくれる専門家を見つけることが大切です。
治療②:薬物療法
- 抗うつ薬:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が最もよくすすめられます。うつ病を伴わない人でも、PTSDの症状に効果がある可能性があります。
- 併存する病気の治療:うつ病や依存症など、一緒にある病気も治療します。
- 特定の症状への薬:不眠、気分の波、悪夢など、特定の症状に合わせて薬が使われることがあります。
薬は心理療法を補うものとして使われることが多く、どの薬を使うかは症状や一緒にある病気に応じて医師が判断します。自己判断で薬を始めたりやめたりしないようにしましょう。
出典によって異なる点:どの心理療法が効くか
MSDマニュアル家庭版は、トラウマに焦点を当てた認知行動療法がPTSDに最も効果的な治療とし、EMDRの効果は眼球運動そのものよりも主に曝露によるものと考えられるとしています。
コクランのシステマティックレビュー(Bissonら、2013年)は、成人の慢性PTSDに対する心理療法の70件の研究(4,761人)をまとめました。個別に行うトラウマに焦点を当てた認知行動療法とEMDRは、待機や通常のケアと比べて、医師が評価したPTSDの症状を大きく減らしました。治療直後には、この2つとストレス管理のあいだに明らかな差はみられませんでした。ただし、根拠の質はとても低いと評価され、結果は慎重に解釈すべきだとしています。
トラウマに焦点を当てた心理療法の効果は研究でも示されていますが、どの方法が最もよいかは人によって異なる可能性があります。自分に合った治療を、専門家と相談しながら選びましょう。
PTSDのポイント
- PTSDは、命が脅かされる出来事などの後に、強い苦痛が1か月以上続く病気です。
- 約9%の人が生涯のうちに経験し、直接の体験だけでなく、目撃や身近な人の出来事でも起こります。
- 侵入症状(フラッシュバック)、回避、考え方や気分の悪い変化、覚醒と反応の変化の4つが特徴です。
- 安全の確保、生活リズム、人とのつながりなどのセルフケアが大切です。
- 治療の中心は心理療法で、トラウマに焦点を当てた認知行動療法が最も効果的とされています。
- SSRIなどの薬が使われることもあり、うつ病や依存症などの併存する病気も治療します。
PTSDについてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
PTSDの原因は何ですか?
戦闘、性暴力、災害、暴力、交通事故など、命が脅かされるような出来事を体験したり目撃したりしたことが原因になります。身近な人に起きたことを知った場合や、救助活動で関わった場合にも起こります。
PTSDの主な症状は?
出来事がくり返しよみがえる侵入症状(フラッシュバックや悪夢)、出来事を思い出させるものを避ける回避症状、考え方や気分の悪い変化、眠れない・驚きやすいなどの覚醒の変化の4つが特徴です。
PTSDはいつ発症しますか?
出来事の直後の強いストレス反応から続いて起こることもあれば、出来事から最長6か月ほどたってから現れることもあります。症状が1か月以上続く場合にPTSDと診断されます。
PTSDは治りますか?
慢性のPTSDは、時間とともに軽くなることが多い一方で、生活に重い支障が続く人もいます。トラウマに焦点を当てた認知行動療法などの心理療法で、症状の改善が期待できます。
EMDRとは何ですか?
治療者の指の動きを目で追いながら、トラウマの場面を思い浮かべる心理療法です。研究では、待機や通常のケアより症状を減らすことが示されていますが、効果は主に記憶に向き合うことによると考えられています。
自分でできることはありますか?
安全を確保し、食事・睡眠・運動のリズムを保ち、毎日の日課を立てることが役立ちます。アルコールに頼らず、趣味や人とのつながりを大切にしましょう。つらい状態が続く場合は専門家に相談してください。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 心的外傷後ストレス症(PTSD)
- Bisson JI, et al. Psychological therapies for chronic post-traumatic stress disorder (PTSD) in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2013
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。

