ヴィーガン(完全菜食)とは?
菜食にはいくつかのタイプがあり、肉や魚は食べないものの卵や乳製品はとる菜食もあります。ヴィーガンは、肉、魚、卵、乳製品など、動物に由来する食品を一切とらない「完全な菜食」を指します。
食事の中心は、野菜、果物、豆類、穀物、ナッツや種子などの植物性の食品です。主な栄養素の多くはこうした食品からとることができますが、動物性の食品にしか含まれない栄養素や、植物性の食品からは吸収されにくい栄養素もあります。
ヴィーガンの食事を健康的に続けるには、どの栄養素が不足しやすいかを知り、食品の選び方やサプリメントで補うことが大切です。
植物中心の食事の土台:炭水化物と脂肪
多くの専門家は、1日の総カロリーの約50〜55%を炭水化物でとり、その炭水化物は主に果物、野菜、豆類、精製されていない穀物からとることをすすめています。シロップや甘味料などの添加糖類は、1日の総カロリーの10%以下にすべきとされています。
- 食物繊維が豊富:野菜、果物、豆類、全粒穀物は、植物中心の食事の大きな利点です。
- 脂肪の質:植物に由来する脂肪には、一般に一価不飽和脂肪酸や多価不飽和脂肪酸が多く含まれています。一方、動物性の食品に多い飽和脂肪酸は、コレステロール値を上げ、動脈硬化のリスクを高める可能性があります。
- 注意したい脂肪:ココナッツ油やパーム油、水素を添加した植物油は、植物性でも注意が必要な脂肪です。
ただし、植物性の食品であっても、加工食品や甘い菓子が多ければ健康的な食事とはいえません。食品の種類と質を意識することが大切です。
たんぱく質:植物性たんぱく質の質
たんぱく質をつくるアミノ酸は20種類あり、そのうち9種類は体の中でつくることができない「必須アミノ酸」で、食事からとる必要があります。
食品のたんぱく質のうち、体が必須アミノ酸を取り出すのに使える割合は、食品によって異なります。卵のたんぱく質は100%、牛乳や肉のたんぱく質も高い割合で使えますが、ほとんどの野菜やシリアル(穀物)のたんぱく質は、半分を少し下回る割合でしか使えません。
そのため、ヴィーガンでは、豆類、大豆製品、穀物、ナッツなど、さまざまな植物性のたんぱく質源を毎日の食事に取り入れ、十分な量をとることを意識するとよいでしょう。食事の内容に不安がある場合は、管理栄養士に相談すると安心です。

ビタミンB12:ヴィーガンで最も不足しやすい栄養素
ビタミンB12は、赤血球をつくり成熟させるため、遺伝物質であるDNAをつくるため、そして神経が正常に働くために必要なビタミンです。肉(とくに牛肉、豚肉、レバーなどの内臓)、卵、牛乳、貝類などの動物性の食品に含まれています。栄養を強化したシリアルからもとることができます。
ビタミンB12欠乏症は、動物性の食品をとらない完全な菜食主義者が、サプリメントをとらない場合に起こります。ほかの人では、摂取不足で欠乏症が起こる可能性は低いとされています。
ほかの多くのビタミンと違い、ビタミンB12は主に肝臓に十分な量が蓄えられていて、とらなくなっても蓄えを使い切るまでに通常3〜5年かかります。そのため、ヴィーガンを始めてしばらくは問題がなくても、何年かたってから欠乏症が現れることがあります。サプリメントや強化食品で、継続的に補うことが大切です。
ビタミンB12欠乏症の症状
- 貧血の症状:顔色が悪い(蒼白)、筋力の低下、疲れやすさ。重い場合は、息切れ、めまい、動悸。
- 神経の症状:手足のピリピリ感や感覚の低下(腕より脚に早く出やすい)、手足に力が入らない、歩きにくい、自分の手足の位置や振動がわかりにくい。
- こころや頭の働きの症状:錯乱、怒りっぽさ、軽い抑うつ。進行すると認知症などに至ることがあります。
貧血は少しずつ進むため、体がある程度慣れてしまい、重い貧血でも症状が軽いことがあります。また、貧血が起こらなくても神経の損傷が起こることがあります。
ビタミンB12欠乏症は血液検査で診断できます。高用量のビタミンB12のサプリメントで貧血の症状は消える傾向がありますが、神経の損傷による症状は残ることがあるため、早めに気づいて補うことが大切です。
鉄:植物性の鉄は吸収されにくい
食品に含まれる鉄には、2つの種類があります。
- ヘム鉄:動物性の食品に含まれ、非ヘム鉄よりはるかに効率よく吸収されます。
- 非ヘム鉄:大半の食品や鉄のサプリメントに含まれる鉄で、平均的な食事の鉄の85%以上を占めますが、体に吸収されるのはとった量の20%以下です。
ヴィーガンの食事でとれる鉄は、すべて吸収されにくい非ヘム鉄になります。非ヘム鉄はビタミンCと一緒にとると吸収されやすくなるため、豆類など鉄を含む食品を、ビタミンCを含む野菜や果物と組み合わせて食べるのがよいでしょう。
鉄が足りなくなると鉄欠乏性貧血になり、顔色が悪くなる、筋力が落ちる、疲れやすいといった症状が出ます。集中力や学習能力が損なわれることもあります。

鉄やB12がとくに不足しやすい人
- 思春期の女子:成長期で月経も始まる時期のため、肉を食べない思春期の女子は鉄欠乏症になりやすいとされています。
- 月経のある女性:毎月の月経が鉄欠乏の原因になることがあります。
- 高齢者:胃酸が減るとビタミンB12の吸収が悪くなりますが、サプリメントのビタミンB12は胃酸が少ない人でもよく吸収されます。
- 特定の薬を使っている人:胃酸を抑える薬や糖尿病の薬(メトホルミン)などで、ビタミンB12の吸収が悪くなることがあります。
なお、鉄のサプリメントは、男性や月経のない女性が医師の指示なく飲むと、腸からの出血などの病気の発見を遅らせるおそれがあります。鉄剤を自己判断で飲む前に、血液検査で本当に不足しているかを確かめましょう。
妊娠中・授乳中と子どもの注意点
ヴィーガンの食生活をしている人が妊娠・授乳する場合や、子どもに菜食をさせる場合は、とくに注意が必要です。
- 授乳中の赤ちゃん:完全な菜食主義の母親の母乳で育てられている赤ちゃんは、ビタミンB12欠乏症になるリスクが高くなります。完全菜食の母親をもつ赤ちゃんには、生まれた直後からビタミンB12のサプリメントを始めることが、欠乏症の予防に役立ちます。
- 妊娠中:おなかの赤ちゃんの成長に鉄が必要なため、大半の妊婦に鉄剤がすすめられています。
- 乳幼児:成長のために多くの鉄が必要で、食事の鉄が足りないと鉄欠乏症になることがあります。
妊娠中や授乳中、子どもの食事については、医師や管理栄養士に食生活を伝えたうえで、サプリメントの必要性を相談してください。
出典によって異なる点:ヴィーガンは健康によいのか
MSDマニュアル家庭版は、完全な菜食主義者がサプリメントをとらない場合にビタミンB12欠乏症が起こることや、肉を食べない思春期の女子が鉄欠乏症になりやすいことなど、主に栄養不足のリスクの面から菜食に触れています。
一方、Dinuらのシステマティックレビューとメタアナリシス(2017年)は、86件の横断研究と10件の前向きコホート研究をまとめ、菜食やヴィーガンの人の健康状態を、肉や魚も食べる人と比べました。菜食・ヴィーガンの人は、BMI、総コレステロール、LDLコレステロール、血糖値が低く、菜食では虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)の発症や死亡のリスクが25%、がん全体の発症が8%低くなっていました。ヴィーガンでは、がん全体の発症が15%低いという結果でしたが、研究の数は限られていました。一方で、心血管疾患全体や脳血管疾患、全体の死亡率には差がみられませんでした。
これらは観察研究で、菜食の人はほかの生活習慣も異なる可能性があるため、菜食そのものの効果と断定はできません。利点が期待できる一方で、ビタミンB12などの不足を補う工夫が欠かせない、というのが両者を合わせた見方です。
ヴィーガンのポイント
- ヴィーガンは、肉、魚、卵、乳製品など動物性の食品を一切とらない完全な菜食です。
- 野菜、果物、豆類、全粒穀物を中心とした食事は、食物繊維が豊富で脂肪の質もよい傾向があります。
- 野菜や穀物のたんぱく質は体で使える割合が低めのため、多様な植物性たんぱく質を十分にとります。
- ビタミンB12は動物性の食品にしか含まれないため、サプリメントや強化食品で継続的に補うことが欠かせません。
- 植物性の鉄は吸収されにくいため、ビタミンCと一緒にとり、思春期の女子や妊婦はとくに注意します。
- 研究では、菜食・ヴィーガンの人で心臓病やがんのリスクが低い傾向が報告されていますが、観察研究による結果です。
ヴィーガンについてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
ヴィーガンとベジタリアンの違いは?
ベジタリアン(菜食)には、肉や魚は食べないものの卵や乳製品はとるタイプもあります。ヴィーガンは、肉、魚、卵、乳製品など動物に由来する食品を一切とらない完全な菜食です。
ヴィーガンで不足しやすい栄養素は?
とくに重要なのはビタミンB12で、動物性の食品にしか含まれないため、サプリメントをとらないと欠乏症が起こります。鉄も植物性の食品からは吸収されにくく、たんぱく質も量と種類を意識してとる必要があります。
ビタミンB12はどうやってとればよいですか?
ヴィーガンでは、サプリメントや栄養を強化した食品で補います。体の蓄えは3〜5年分ほどあるため不足に気づくのが遅れがちで、継続的にとることが大切です。
鉄を効率よくとるには?
植物性の食品の鉄(非ヘム鉄)は、とった量の20%以下しか吸収されません。ビタミンCと一緒にとると吸収されやすくなるため、鉄を含む豆類などを、ビタミンCを含む野菜や果物と組み合わせるとよいでしょう。
ヴィーガンは健康によいのですか?
研究では、菜食やヴィーガンの人はコレステロールや血糖値が低く、心臓病やがんのリスクが低い傾向が報告されています。ただし観察研究による結果で、ビタミンB12などの不足を補う工夫が欠かせません。
妊娠中や子どもがヴィーガンでも大丈夫ですか?
完全菜食の母親の母乳で育つ赤ちゃんはビタミンB12欠乏症のリスクが高く、生まれた直後からのサプリメントが予防に役立ちます。妊娠中は鉄も多く必要になるため、医師や管理栄養士に相談してください。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · ビタミンB12欠乏症
- MSDマニュアル家庭版 · 鉄欠乏症
- MSDマニュアル家庭版 · 炭水化物、タンパク質、脂肪
- Dinu M, et al. Vegetarian, vegan diets and multiple health outcomes: a systematic review with meta-analysis of observational studies. Crit Rev Food Sci Nutr. 2017
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。

