前庭神経炎とはどんな病気?
前庭神経炎は、前庭神経の炎症によって、突然、激しい回転性めまいの発作が起こる病気です。
内耳の一部である前庭系には、平衡感覚をつかさどる器官があり、前庭神経を通じて脳とつながっています。前庭神経炎は通常、片方の耳の前庭神経をウイルスがおかすことで起こると考えられています。
前庭神経炎は、内耳が原因のめまい(末梢性めまい)の中で、良性発作性頭位めまい症に次いで多い原因とされ、めまいの専門外来を受診する患者の約7%を占めると報告されています。
前庭神経炎の症状
- 激しい回転性めまい:自分や周り、またはその両方が動いたり回ったりしているように感じます。多くの人は、この不快な感覚を「めまい」と表現します。
- 吐き気と嘔吐
- 眼振:眼球が一方向にすばやく動き、ゆっくり戻る動きをくり返します。
前庭神経炎では、通常、耳鳴りはなく、聞こえにも影響がありません。この点は、めまいの原因を見分けるうえで手がかりになります。
めまいはどのくらい続く?
激しい回転性めまいの発作が1回だけ起こり、7〜10日ほど続く場合があります。一方、多くの人では、最初の発作から数週間にわたって軽い回転性めまいの発作がくり返されます。通常、最初の発作が最も重くなります。
回転性めまいは最初が最も強く、数日のうちに徐々に弱まりますが、バランスの乱れ(ふらつき)は最大で数カ月残ることがあります。
前庭神経炎の検査
- 聴力検査:聞こえに異常がないかを調べ、ほかのめまいの病気と見分けます。
- 眼振の検査:目の動きを観察し、めまいの原因を調べます。
- 造影MRI検査:腫瘍などほかの病気が原因でないことを確認するために行います。
聴力検査と眼振の検査は、めまいの原因を見分けるのに役立ちます。前庭神経炎では通常、聞こえは保たれるため、聞こえの低下がある場合はほかの病気を考える手がかりになります。
発作の時期の治療
- めまいを抑える薬:回転性めまいの症状をやわらげます。
- 吐き気止め:吐き気や嘔吐を軽くします。
- ステロイド:短期間使われることがあります。
- 点滴:嘔吐が長く続く場合は、静脈から水分と電解質を補います。
めまい止めの薬は短期間に
めまいや吐き気を抑える薬は、長く使うと、かえって症状が続く期間を延ばしてしまうことがあります。特に高齢者で起こりやすいため、使うのは短期間だけにするべきとされています。
薬は、つらい症状をやわらげるためのものです。発作の時期を過ぎたら、薬に頼りすぎず、体を動かして回復を促すことが大切になります。
回復期は活動的に過ごす
回転性めまいは数日で消えることが多いものの、めまいがするような感覚は数週間から数カ月続くことがあります。この時期、医師は活動的に過ごすようすすめます。
- めまいが落ち着いたら、できる範囲で日常の動作を再開する
- 前庭療法(前庭リハビリテーション)と呼ばれる専門の運動療法を受ける
前庭リハビリテーションとは
片側の内耳や前庭神経の障害では、めまい、見え方の乱れ、バランスの障害が起こります。その治療には薬、体を動かす手技、運動プログラムがあり、運動プログラムをまとめて前庭リハビリテーションと呼びます。前庭療法と呼ばれる専門の理学療法として行われます。
片側の内耳や前庭神経の障害によるめまいに対する研究では、前庭リハビリテーションによってめまいが改善し、中期的に症状が治まって日常の機能も良くなることが示されています。副作用の報告はなく、安全な方法です。

出典によって異なる点:ステロイドとリハビリの効果
MSDマニュアル家庭版は、前庭神経炎の治療として、めまいや吐き気の薬を短期間使うこと、ステロイドを短期間使うこと、回復期に活動的に過ごすことと前庭療法が役立つことを挙げています。
コクランのシステマティックレビュー(Fishmanら、2011年)は、ステロイドの飲み薬とプラセボを比べた4件の試験(149人)をまとめました。いずれも小規模で、方法の質は低いものでした。ステロイドを使うと、1カ月後に内耳の検査(温度眼振検査)の結果が完全に回復する人は増えましたが、12カ月後には差がなく、めまいなどの症状の改善にもつながっていませんでした。ステロイドをすすめるには根拠が不十分と結論しています。
コクランのシステマティックレビュー(McDonnellら、2015年)は、片側の前庭障害に対する前庭リハビリテーションの39件の研究(2,441人)をまとめ、めまいの頻度の改善(4件、565人)と、日常生活への支障の軽減を示し、副作用の報告はなく、安全で効果的だとしています。ステロイドの効果ははっきりしない一方で、リハビリの効果はより確かだといえます。
前庭神経炎のポイント
- 前庭神経炎は、前庭神経の炎症で突然の激しい回転性めまいが起こる病気です。
- 吐き気や嘔吐、眼振を伴いますが、通常、耳鳴りや聞こえの低下はありません。
- 強いめまいは数日で弱まり、ふらつきは数カ月残ることがあります。
- 検査では聴力や眼振を調べ、MRI検査でほかの病気を除外します。
- めまい止めの薬は回復を遅らせることがあるため、短期間にとどめます。
- 回復期は活動的に過ごし、前庭リハビリテーションを行うことが役立ちます。
前庭神経炎についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
前庭神経炎の原因は何ですか?
通常は、片方の耳の前庭神経をウイルスがおかして炎症が起こると考えられています。
めまいはどのくらいで治まりますか?
激しい回転性めまいは数日で徐々に弱まります。ただし、ふらつきは数週間から数カ月続くことがあります。
耳が聞こえにくくなりますか?
前庭神経炎では、通常、耳鳴りはなく、聞こえにも影響がありません。聞こえの低下を伴う場合は、ほかの病気も考えて検査を受けてください。
めまい止めの薬は飲み続けたほうがよいですか?
いいえ。長く使うとかえって症状が続く期間を延ばすことがあるため、短期間にとどめるべきとされています。
ステロイドは効きますか?
研究では、1カ月後の内耳の検査結果は改善しましたが、12カ月後には差がなく、症状の改善も示されていません。効果ははっきりしていません。
リハビリはどんな効果がありますか?
前庭リハビリテーションは、片側の前庭障害によるめまいを改善し、安全で効果的であることが研究で示されています。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 前庭神経炎
- Fishman JM, et al. Corticosteroids for the treatment of idiopathic acute vestibular dysfunction (vestibular neuritis). Cochrane Database Syst Rev. 2011
- McDonnell MN, Hillier SL. Vestibular rehabilitation for unilateral peripheral vestibular dysfunction. Cochrane Database Syst Rev. 2015
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。

