むち打ち症とは?
いわゆる「むち打ち症」は、追突や衝突などの交通事故で、首がむちのようにしなったために起こった首のけがの、局所の症状の総称です。ヘッドレストが整備されていなかった時代に広まった呼び名です。
ヘッドレストが標準装備になり、「むち打ち症」と呼ばれるけがは大きく減りましたが、いまも医学的な病名と混同して使われることがあります。けがの原因や程度によって症状はさまざまで、治療の方法や期間も多岐にわたります。
「むち打ち症」は正式な病名ではない
むち打ち症は医学的な病名ではありません。実際には、次のような病気やけがのことがあり、医師の専門的な診断を受けることが必要です。
- 外傷性頚部症候群(頚椎捻挫・頚部挫傷=首の捻挫)
- 神経根症(頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症)
- 脊髄損傷
一方で、「むち打ち損傷」「外傷性低髄液圧症候群」「外傷性髄液減少症」など、正確ではない病名がつけられていることも少なくありません。日本整形外科学会は、関連する病気として頚椎椎間板ヘルニアと頚椎症性神経根症を挙げています。
むち打ち症(外傷性頚部症候群)の症状
交通事故などで首の捻挫を起こしたあと、長い期間にわたって次のような症状が出ることがあります。
- 首の痛み
- 肩こり
- 頭痛
- めまい
- 手のしびれ
X線(レントゲン)検査では、骨折や脱臼は認められないのが特徴です。
けがをしたとき首で起きていること
けがをした瞬間、首の骨(頚椎)を守ろうとして、反射的に筋肉が緊張します。
衝撃が大きい場合には、筋肉の一部が切れたり、靭帯が傷ついたりしています。けがのあとしばらく(1〜3か月)は、その部分に痛みが出ます。
診察と検査
交通事故のあとにむち打ち症が疑われる場合は、神経の診察を含めた診察と症状によって、X線やMRIなどの詳しい検査ができるため、整形外科医の診察を受けることが勧められます。
- 骨折や脱臼がないことは、必ず確認が必要です。
- X線やMRIでは、年齢に応じた変化(変性)がみられますが、けがとは関係ありません。
- 頚椎症による骨のとげ(骨棘)があると、MRIで椎間板が後ろにふくらんでいるように見え、誤って「椎間板ヘルニア」と診断されることもあります。
痛みが長引く原因
けがのあと1〜3か月は痛みが出ますが、この期間に首を安静にする習慣がつくと、痛みが長引く原因になります。
また、骨折や脱臼がないのに、首のカラー(固定具)を長い期間つけ続けると、首の痛みや肩こりが長引く原因になります。安静にしすぎることが、かえって回復を遅らせることがあるのです。
治療と予防:安静は短く、早めに動かす
- 骨折や脱臼がなければ、受傷後2〜4週間の安静のあとは、首を動かすことが痛みを長引かせないための予防になります。
- 安静にする期間は、できるだけ短いほうがよいとされています。
- 慢性期には、安静や生活の制限は行いません。
- ストレッチを中心とした体操をしっかり行うことが、最良の治療とされています。
症状の重さによる分類
むち打ちには多くの治療法がありますが、それらが使われていることを支える科学的な根拠は少ないとされています。海外の研究では、むち打ちに関連する症状(むち打ち関連障害)を、重さによって分類しています。
- グレード0:首の訴えも体の所見もない
- グレード1・2:首の症状や、筋肉・骨格の症状がある
- グレード4:骨折や脱臼がある
グレード1・2の人を対象にした研究では、安静や固定、超音波などの「受け身の治療」と、運動やふだん通りに過ごすことなどの「積極的な治療」が、治療なしや偽の治療、またはお互いと比べられています。結果として、痛み、全体的な改善の感じ方、日常生活への参加を調べた研究が選ばれました。23件の研究のうち17件は受傷後3週間未満の急性期の人、2件は4〜6週の人、2件は3か月を超えて症状が続く人を対象にしていました。
出典によって異なる点:治療の根拠はどこまで確かか
日本整形外科学会は、骨折や脱臼がなければ受傷後2〜4週間の安静のあとに首を動かすこと、慢性期にはストレッチを中心とした体操を行うことを最良の治療としています。
コクランの系統的レビュー(Verhagenら、2007年)は、むち打ちのグレード1・2の人を対象とした23件の研究(2,344人)を調べました。しかし、質の高さの基準を満たした研究は8件(約3分の1)にとどまり、比べ方もさまざまで結果も一致しなかったため、受け身の治療と積極的な治療のどちらについても、効果を支持も否定もできないとしています。
つまり、日本の学会は早めに動かすことを勧めていますが、研究による根拠はまだ十分とはいえない段階です。レビューは、急性期、亜急性期、慢性期のいずれについても、効果がはっきりした治療は現時点では支持されないと結論づけています。
むち打ち症のポイント
- むち打ち症は、交通事故などで首がむちのようにしなって起こるけがの呼び名で、正式な病名ではありません。
- 首の痛み、肩こり、頭痛、めまい、手のしびれなどが長く続くことがあります。
- X線では骨折や脱臼は見つからないのが特徴です。
- 安静の習慣や長期間のカラーは、痛みを長引かせる原因になります。
- 骨折や脱臼がなければ、2〜4週間の安静のあとは首を動かします。
- 慢性期は、ストレッチを中心とした体操が最良の治療とされています。
むち打ち症についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
むち打ち症とは何ですか?
追突などの交通事故で首がむちのようにしなって起こる、首のけがの症状の総称です。医学的な病名ではありません。
正式な病名は何ですか?
外傷性頚部症候群(頚椎捻挫・頚部挫傷)、神経根症(頚椎椎間板ヘルニアなど)、脊髄損傷などがあり、医師の専門的な診断が必要です。
どんな症状が出ますか?
首の痛み、肩こり、頭痛、めまい、手のしびれなどが、長い期間にわたって出ることがあります。
ずっと安静にしていたほうがよいですか?
安静の期間はできるだけ短いほうがよいとされています。骨折や脱臼がなければ、受傷後2〜4週間の安静のあとは首を動かします。
首のカラーはつけ続けたほうがよいですか?
骨折や脱臼がないのに長期間つけ続けると、首の痛みや肩こりが長引く原因になります。
MRIで椎間板ヘルニアと言われました。
頚椎症による骨のとげがあると、MRIで椎間板がふくらんで見え、誤ってヘルニアと診断されることもあります。整形外科医とよく相談してください。
出典
- 日本整形外科学会 · 「むち打ち症」
- 日本整形外科学会 · 「外傷性頚部症候群」
- Verhagen AP, et al. Conservative treatments for whiplash. Cochrane Database Syst Rev. 2007
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。
