多発性硬化症とは?
神経の線維は、髄鞘という組織に覆われています。多発性硬化症では、視神経、脳、脊髄のあちこちで髄鞘が壊され(脱髄)、傷あと(硬化)ができます。神経の信号がうまく伝わらなくなり、さまざまな症状が出ます。
世界で約280万人がこの病気をもっています。20〜40歳で始まることが最も多く、女性にやや多くみられます。子どもではまれです。
多発性硬化症の原因と危険因子
原因はわかっていませんが、免疫が自分の組織を攻撃する自己免疫反応が関わっていると考えられています。
- 遺伝:親や兄弟姉妹に患者がいると、リスクが数倍高まります。
- 育った地域:15歳までを温帯地域で過ごした人は、熱帯地域で育った人よりリスクが高くなります。ビタミンDの血中濃度が関係している可能性があります。
- ウイルス:エプスタイン・バーウイルスへの感染歴は、リスクの上昇につながると考えられています。
- 喫煙:発症の可能性を高め、病気の進行を早める可能性があります。
多発性硬化症の初期症状
- 腕、脚、体、顔のピリピリ感、しびれ、痛み、焼けるような感じ、かゆみ
- 脚や手の力や器用さの低下、こわばり
- 視界のぼやけやかすみ(とくに真っすぐ前を見たときの視力)
- 片方の目の視力低下と、目を動かしたときの痛み(視神経炎)
- 物が二重に見える
- 歩きにくさ、バランスの問題、めまい、疲れやすさ
暑い天気や熱いお風呂、発熱などで、症状が一時的に悪化することがあります。
病気が進んだときの症状
- 動作がふるえて不規則になり、部分的または完全な麻痺が起こることがあります。
- 筋力が落ちた筋肉がつっぱり、痛みを伴うけいれんが出ることがあります。
- 話し方がゆっくりで不明瞭になることがあります。
- 抑うつがよくみられ、感情をコントロールできなくなることもあります。
- 尿をコントロールできない、膀胱を空にできない、便秘などの問題がよくみられます。
ただし、多発性硬化症のある人の4分の3は、車いすが必要になることはありません。
多発性硬化症の経過のタイプ
- 再発寛解型:再発と寛解が交互に起こります。寛解は数か月から数年続きます。
- 二次性進行型:初めは再発と寛解をくり返し、しばらくすると緩やかな進行が続くようになります。
- 一次性進行型:明らかな再発や寛解がなく、徐々に進行します。
- 進行再発型:徐々に進行する中で、突然の再発もみられるまれなタイプです。
治療をしない場合、再発は平均して2年に1回程度ですが、個人差が大きいとされています。
多発性硬化症の診断
症状が多彩なため、初期には医師でも気づきにくいことがあります。若い人に、かすみ目や複視、体のあちこちに関係のない運動障害や感覚の異常が現れたときに疑われます。
- MRI検査:脳と脊髄の脱髄が起きた場所を見つけるのに最も役立つ検査です。
- 誘発電位検査:光などの刺激に対する脳の反応を記録し、信号の伝わりの遅れを調べます。
- 腰椎穿刺:髄液を調べ、特徴的な抗体のパターン(オリゴクローナルバンド)などを確認します。
- 血液検査:似た病気である視神経脊髄炎スペクトラムなどと見分けるために行うことがあります。
多発性硬化症の治療
- ステロイド:急な発作(再発)に最も多く使われます。副作用が多いため、長期間使うことはまれです。
- 疾患修飾療法:免疫が髄鞘を攻撃するのを防ぎ、将来の再発、MRIの新しい病変、障害の進行を抑えるために使われます。
- 症状を和らげる薬:筋肉のつっぱり、神経の痛み、疲労感、抑うつ、尿の問題、便秘などに対して、それぞれ薬が使われます。
多発性硬化症に一律に効く治療法はなく、病気のタイプや状態に合わせて治療を選びます。
日常生活で大切なこと
- 運動:自転車エルゴメーター、ウォーキング、水泳、ストレッチなどを定期的に行うと、筋肉のつっぱりを減らし、循環器や筋肉の機能、心の健康を保つのに役立ちます。
- リハビリ:理学療法は、バランス、歩く力、関節の動く範囲を保つのに役立ちます。できるだけ長く自分で歩くようにします。
- 暑さを避ける:高温で症状が悪化することがあるため、熱い風呂やシャワーを控えます。
- 禁煙:喫煙者は禁煙すべきです。
- ビタミンD:血中濃度が低い人では症状が重くなる傾向があり、通常はサプリメントがすすめられます。
出典によって異なる点:運動は疲労に効くか
MSDマニュアル家庭版は、定期的な運動が筋肉のつっぱりを減らし、体の機能と心の健康を保つのに役立つとし、疲労感には薬が使われることもあるとしています。
コクランのシステマティックレビュー(Heineら、2015年)は、多発性硬化症の2,250人を対象にした45件の試験をまとめました。運動をしない対照と比べて、運動療法は本人が感じる疲労を減らしました(根拠の質は中程度)。とくに持久力のトレーニングや、いくつかの運動を組み合わせたトレーニングで効果がみられ、運動療法を害なく行えることも示されました。ただし、多くの試験は疲労のある人に限ったものではありませんでした。
運動は、体の機能を保つだけでなく、多発性硬化症の疲労を和らげる方法としても期待できると考えられます。
多発性硬化症のポイント
- 多発性硬化症は、脳・脊髄・視神経の髄鞘が壊される自己免疫の病気です。
- 20〜40歳で始まることが多く、女性にやや多くみられます。
- しびれ、見え方の異常、脱力、疲労などが初期症状です。
- 多くは再発と寛解をくり返し、MRI検査が診断に最も役立ちます。
- 再発にはステロイド、再発予防には疾患修飾療法を使います。
- 運動、リハビリ、暑さを避けること、禁煙が日常生活を支えます。
多発性硬化症についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
多発性硬化症の初期症状は何ですか?
腕や脚、顔のしびれやピリピリ感、脚や手の力の低下、視界のかすみ、片目の視力低下と目を動かしたときの痛み、めまい、疲れやすさなどがあります。
多発性硬化症の原因は何ですか?
原因はわかっていませんが、自己免疫反応が関わっていると考えられています。遺伝、育った地域、エプスタイン・バーウイルスへの感染歴、喫煙などがリスクに関係しています。
多発性硬化症はどうやって診断しますか?
症状と診察に加え、MRI検査が最も役立ちます。必要に応じて誘発電位検査や腰椎穿刺も行います。
多発性硬化症は治りますか?
一律に効く治療法はありませんが、疾患修飾療法で再発や障害の進行を抑えることができます。非常に重い場合を除き、寿命が短くなることはありません。
多発性硬化症でも運動してよいですか?
はい。定期的な運動は、筋肉のつっぱりを減らし、体の機能と心の健康を保つのに役立ちます。研究では、疲労を和らげる効果も示されています。
お風呂に入ると症状が悪くなるのはなぜですか?
高温で症状が一時的に悪化することがあります(ウートフ現象)。熱い風呂やシャワーは控えましょう。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 多発性硬化症
- Heine M, et al. Exercise therapy for fatigue in multiple sclerosis. Cochrane Database Syst Rev. 2015
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。
