ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?
筋肉の動きは、脳の運動をつかさどる部分(運動皮質)と脊髄にある神経細胞(運動ニューロン)が命令を伝えることで始まります。運動ニューロン疾患は、この運動ニューロンが少しずつ壊れていく病気で、命令を受けていた筋肉が弱り、うまく働かなくなります。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、運動ニューロン疾患の中で最も多いもので、ルー・ゲーリッグ病とも呼ばれます。
運動ニューロン疾患は男性に多く、通常は50代から70代で始まります。多くは原因がわかっていませんが、一部は遺伝子の変化による遺伝性のもので、家族にも同じ病気の人がいることがあります。
ALSの初期症状
ALSは筋力の低下から始まります。最初に症状が出る場所は人によって異なります。
- 手:最も多いのは手の筋肉の筋力低下です。
- 足:足の筋肉から始まることもあります。
- 口とのど:やや少ないものの、口とのどの筋肉から始まることもあります。
筋力の低下は、体の左右どちらか一方で強く出ることがあります。運動ニューロン疾患では、筋力が低下しても痛みや感覚の変化はみられないのが特徴です。抑うつもよくみられます。
進行とともに現れる症状
- 筋肉のこわばり:脳の運動ニューロンが影響を受けると、筋肉が硬くこわばり、動きが硬くぎこちなくなります。
- 筋肉のやせとぴくつき:脊髄の運動ニューロンが影響を受けると、筋肉がやせ、ぴくぴくとひきつることがあります。
- 感情のコントロール:場面に合わずに笑ったり泣いたりしてしまうことがあります。
- 呼吸:最終的に呼吸の筋肉が弱って呼吸が苦しくなり、人工呼吸器が必要になる人もいます。
長く麻痺が続くと、筋肉が縮んで元に戻らなくなること(拘縮)があります。
話すこと・飲み込むことへの影響
ALSでは、顔の表情をコントロールするのが難しくなることがあります。のどの筋肉が弱ると、次のような症状が現れます。
- 話しにくさ:話し方が不明瞭になります。
- 飲み込みにくさ(嚥下困難):ものが飲み込みにくくなります。
- よだれ:飲み込みにくいため、よだれが垂れることがあります。
ALSの変わった型である進行性球麻痺では、かむ、飲み込む、話すための筋肉が主に侵され、鼻声になることもあります。食べものや唾液が肺に入ってむせたりのどに詰まったりしやすく、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
話すことや飲み込むことの変化には、言語聴覚士が関わり、コミュニケーションの方法や安全な食べ方を一緒に考えていきます。
ALSの進行の速さと見通し
ALSの進行の速さは、人によってさまざまです。
- 約50%の人は、最初の症状が出てから3年以内に亡くなります
- 約20%の人は5年間生存します
- 約10%の人は10年以上生存します
- わずかながら、診断から30年以上生存する人もいます
ALSに似た運動ニューロン疾患の中には、進行がゆっくりなものもあります。たとえば、進行性筋萎縮症の人の多くは25年以上生存します。見通しについては、主治医とよく話し合うことが大切です。
ALSの診断
大人に、痛みや感覚の消失を伴わない、少しずつ進む筋力の低下がある場合に、運動ニューロン疾患が疑われます。医師は、症状のある場所、いつ始まったか、最初の症状、時間とともにどう変わったかを尋ねます。
- 筋電図検査:筋肉の電気的な活動を記録し、神経、神経と筋肉のつなぎ目、筋肉のどこに問題があるかを調べます。
- 神経伝導検査:神経が信号を伝える速さを測ります。
- MRI検査:脳や脊髄を調べ、似た症状を起こすほかの病気を除外します。
- 血液検査・尿検査・腰椎穿刺・遺伝子検査:感染症、代謝の病気、重金属、炎症、遺伝性の病気などがないかを調べます。
時間がたつと特徴的な症状がそろってくるため、検査をしなくても診断が明らかになることもあります。
ALSの治療:薬と理学療法
運動ニューロン疾患を治す特別な治療法はまだありませんが、安全で効果的な治療法を探す研究が続けられています。
- 進行を遅らせる可能性のある薬:神経細胞を守る働きのある薬で、数か月余命を延ばせる可能性や、機能の低下をある程度遅らせる可能性のある薬があります。
- 症状を和らげる薬:筋肉のこわばり、筋肉のけいれん、よだれ、感情の不安定さや抑うつなどに対して、それぞれ薬が使われることがあります。
- 理学療法:筋力と関節の柔軟性を保ち、筋肉が縮んで固まる(拘縮)のを防ぐのに役立ちます。
同じ姿勢で長く座っていることで痛みが出るなど、進行に伴う痛みにも対処します。
多職種のチームによるケアと、飲み込み・栄養の支え
医師、看護師、理学療法士、言語聴覚士など、複数の分野の医療従事者で構成されるチームがケアにあたることは、体の変化に対応していくうえで大きな助けになります。
- 食事の介助:飲み込みが難しくなった場合は、のどを詰まらせないよう、看護師や介護者が十分注意して介助します。
- 胃ろう:必要に応じて、おなかから胃に入れたチューブ(胃ろう)で栄養をとることがあります。
- 呼吸の補助:呼吸の筋肉が弱った場合は、人工呼吸器が必要になる人もいます。
- 事前指示書:ALSは進行する病気のため、終末期にどのような医療を望むかを記した事前指示書を作っておくことがすすめられています。
気持ちの落ち込みもよくみられるため、本人と家族の心のケアも大切です。
出典によって異なる点:運動はALSに役立つか
MSDマニュアル家庭版は、理学療法が筋力と関節の柔軟性を保ち、拘縮を防ぐのに役立つとしていますが、筋力トレーニングなどの運動の効果については具体的に触れていません。
コクランのシステマティックレビュー(Dal Bello-Haasら、2013年)は、ALSの人を対象にした運動療法のランダム化試験2件(合計43人を解析)をまとめました。中等度の負荷の運動を行ったグループでは、3か月後の機能の評価がストレッチなどの通常のケアより改善しましたが、生活の質、疲れ、筋力には明らかな差はみられませんでした。筋肉のけいれんや痛みが増えるといった悪い影響は報告されませんでした。ただし、試験が小さすぎて、運動がどの程度役立つか、害がないかを判断するには不十分としています。
運動は機能の維持に役立つ可能性がありますが、根拠はまだ限られています。運動の内容や量は、体の状態に合わせて理学療法士や主治医と相談して決めましょう。
ALSのポイント
- ALSは、運動ニューロンが少しずつ壊れて全身の筋力が低下していく、最も多い運動ニューロン疾患です。
- 男性に多く、通常は50代から70代で始まり、多くは原因がわかっていません。
- 手、足、または口とのどの筋力低下から始まり、痛みや感覚の変化はないのが特徴です。
- 話しにくさや飲み込みにくさが現れ、誤嚥性肺炎のリスクが高まることがあります。
- 根本的な治療法はまだありませんが、薬で症状を和らげ、進行をある程度遅らせられる可能性があります。
- 多職種のチームによるケア、理学療法、食事の介助や胃ろうなどで生活を支えます。
ALSについてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
ALSの初期症状は?
最も多いのは手の筋肉の筋力低下で、足や、口とのどの筋肉から始まることもあります。体の左右どちらかで強く出ることがあり、痛みや感覚の変化がないのが特徴です。
ALSはどのくらいの年齢で発症しますか?
運動ニューロン疾患は通常50代から70代で始まり、男性に多くみられます。
ALSは遺伝しますか?
多くは原因がわかっていませんが、一部は遺伝子の変化による遺伝性のもので、家族にも同じ病気の人がいることがあります。
ALSで話すことや飲み込むことはどうなりますか?
のどの筋肉が弱ると、話し方が不明瞭になったり、ものが飲み込みにくくなったりし、よだれが垂れることもあります。言語聴覚士がコミュニケーションの方法や安全な食べ方を一緒に考えます。
ALSは治りますか?
根本的に治す治療法はまだありません。ただし、薬で症状を和らげたり、進行をある程度遅らせたりできる可能性があり、安全で効果的な治療法を探す研究が続けられています。
ALSの人は運動をしてもよいですか?
理学療法は筋力と関節の柔軟性を保つのに役立ちます。研究では中等度の運動で機能の評価が改善したという報告もありますが、試験は小さく、内容は理学療法士や主治医と相談して決めましょう。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とその他の運動ニューロン疾患
- Dal Bello-Haas V, Florence JM. Therapeutic exercise for people with amyotrophic lateral sclerosis or motor neuron disease. Cochrane Database Syst Rev. 2013
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。
