重症筋無力症とは?
神経と筋肉の間では、神経が出すアセチルコリンという物質が筋肉の受容体に作用して、筋肉が収縮します。重症筋無力症の大半の人では、免疫の異常によってこの受容体が攻撃され、神経からの信号が筋肉に伝わりにくくなります。
女性では通常20〜40歳、男性では通常50〜80歳で発症しますが、どの年齢でも起こりえます。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、橋本病などのほかの自己免疫疾患がある人にもしばしばみられます。
原因ときっかけ
免疫が自分の受容体を攻撃する理由はわかっていませんが、胸腺の機能の異常と関係していると考えられています。一部の人では、受容体ではなく、神経と筋肉のつなぎ目をつくる酵素に対する抗体がみられます。
- 感染症
- 手術
- 一部の血圧の薬、マラリアの薬、不整脈の薬などの使用
これらが、重症筋無力症の発症のきっかけになることがあります。
重症筋無力症の主な症状
- まぶたの下垂:まぶたが力なく垂れ下がります。
- 複視:目を動かす筋肉が弱くなり、物が二重に見えます。
- 使うと弱くなる筋力:筋肉をくり返し使うと力が出なくなり、休ませると回復します。例えば、ハンマーを数分打っただけで力が入らなくなります。
- 話す・飲み込むことの困難:話しにくさや飲み込みにくさ、腕や脚、首の筋力低下が出ることがあります。
感覚の障害は起こりません。筋力低下の程度は分刻み、時間ごと、日ごとに変わり、寒いと軽くなります。
目の症状から始まることが多い
約40%の人では目の症状が最初に現れ、最終的には85%の人に目の症状が出ます。15%の人では症状が目の筋肉だけにとどまりますが、大部分の人では全身に症状が広がります。
症状が急に悪くなる時期(増悪)がよくあり、それ以外の時期には症状が軽いか、まったくないこともあります。
筋無力症クリーゼ
約15〜20%の人は、一生のうちに少なくとも1回、筋無力症クリーゼと呼ばれる重い発作を経験します。感染症がきっかけになることがあります。
- 腕や脚に極度の筋力低下が起こります(感覚は失われません)。
- 呼吸に必要な筋肉が弱くなると、呼吸不全につながり、命にかかわります。
クリーゼが起きた場合は、免疫グロブリン製剤の点滴や血漿交換が行われることがあります。
重症筋無力症の検査
- アイスパック試験:まぶたが垂れている場合に、目の上にアイスパックを2分間当て、下垂が軽くなるかをみます。
- 安静試験:目の筋肉を疲れるまで動かした後、暗い部屋で目を閉じて数分休み、症状が良くなるかをみます。
- 筋電図検査:筋肉に細い針を入れて、電気的な活動を記録します。
- 血液検査:アセチルコリン受容体などに対する抗体を調べます。甲状腺の病気などほかの病気も確認します。
- 胸部CT・MRI:診断が確定したら、胸腺と胸腺腫の有無を調べます。
筋力低下が呼吸に影響している場合は、肺機能検査で人工呼吸器が必要かどうかを判断します。
薬による治療
- 筋力を速やかに回復させる薬:アセチルコリンの量を増やすピリドスチグミンなどで筋力が改善します。量が多すぎてもかえって筋力が低下することがあるため、医師が定期的に量を調整します。よくある副作用は、さしこむような腹痛と下痢です。
- コルチコステロイド:自己免疫反応を抑えます。飲み始めは症状が一時的に悪くなることがありますが、2〜3週間以内に改善し、その後は効果のある最小限の量に減らします。
- 免疫抑制剤:ミコフェノール酸モフェチル、シクロスポリン、アザチオプリンなどを使います。
- モノクローナル抗体:これらの薬で改善しない場合に、免疫の特定の部分を狙って抑える薬が役立つことがあります。
胸腺の摘出手術
胸腺腫がある場合は、胸腺腫が広がるのを防ぐために胸腺を摘出する手術が必要です。胸腺を摘出すると、症状が寛解したり、コルチコステロイドの量を減らせるようになったりします。
胸腺腫がなくても、胸腺を摘出することがあります。この治療で、症状が長期にわたって軽くなるとみられています。薬で改善しない場合は、手術の前に免疫グロブリン製剤や血漿交換が行われることもあります。
出典によって異なる点:胸腺腫がなくても手術は役立つか
MSDマニュアル家庭版は、胸腺腫がない場合でも胸腺を摘出することがあり、症状が長期にわたって軽くなるとみられている、と比較的控えめに説明しています。
ランダム化比較試験(Wolfeら、2016年、MGTX試験)は、胸腺腫がなく、アセチルコリン受容体抗体が陽性の全身型重症筋無力症の18〜65歳の126人を、胸腺摘出術とステロイドを組み合わせるグループと、ステロイドだけのグループに分けて3年間比べました。胸腺摘出術を受けたグループでは、筋力低下の重さを示す点数が低く(6.15対8.99)、臨床的な経過が良くなりました。
この試験により、胸腺腫のない人でも胸腺摘出術が有効であることが、より確かな形で示されたといえます。手術が適しているかは、年齢や抗体の種類なども含めて専門医と相談しましょう。
重症筋無力症のポイント
- 重症筋無力症は、免疫の異常で神経から筋肉への信号が伝わりにくくなる病気です。
- まぶたの下垂と複視が多く、筋肉を使うと弱くなり、休むと回復します。
- 約15〜20%の人が、呼吸不全につながる筋無力症クリーゼを経験します。
- アイスパック試験、筋電図検査、抗体の血液検査、胸部の画像検査で診断します。
- ピリドスチグミン、コルチコステロイド、免疫抑制剤などで治療します。
- 胸腺の摘出は、胸腺腫がなくても症状の改善につながります。
重症筋無力症についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
重症筋無力症の初期症状は何ですか?
まぶたが下がる、物が二重に見えるといった目の症状から始まることが多く、約40%の人で目の症状が最初に現れます。
重症筋無力症の特徴的な症状は?
筋肉をくり返し使うと力が出なくなり、休ませると回復するのが特徴です。症状は時間や日によって変わり、寒いと軽くなります。
重症筋無力症はどうやって診断しますか?
アイスパック試験や安静試験、筋電図検査、アセチルコリン受容体などに対する抗体の血液検査で診断します。診断後は胸部CTやMRIで胸腺を調べます。
筋無力症クリーゼとは何ですか?
腕や脚に極度の筋力低下が起こる重い発作で、呼吸の筋肉が弱くなると命にかかわります。約15〜20%の人が一生に一度は経験します。
胸腺を取る手術は必要ですか?
胸腺腫がある場合は手術が必要です。胸腺腫がなくても摘出することがあり、研究でも症状の経過が良くなることが示されています。
重症筋無力症の薬に副作用はありますか?
ピリドスチグミンでは、さしこむような腹痛や下痢がよくみられます。量が多すぎると、かえって筋力が低下することがあります。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 重症筋無力症
- Wolfe GI, et al. Randomized trial of thymectomy in myasthenia gravis. N Engl J Med. 2016
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。
