橋本病とは?
甲状腺は首の前にある臓器で、体の代謝の速さを調節する甲状腺ホルモンをつくっています。甲状腺に炎症が起こることを「甲状腺炎」といい、ウイルス感染や自己免疫の病気が原因になります。
橋本病は、体の中でつくられた抗体が自分の甲状腺の細胞を攻撃する「自己免疫反応」によって起こる甲状腺炎です。甲状腺に白血球が入り込み、甲状腺を攻撃する抗体(抗甲状腺抗体)がつくられます。なぜこのような反応が起こるのかは、わかっていません。
橋本病は甲状腺炎の中で最もよくみられるタイプで、甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが足りなくなる状態)の原因として最も一般的なものです。慢性甲状腺炎とも呼ばれます。
橋本病になりやすい人
- 女性、とくに高齢の女性:橋本病は女性に多くみられます。
- 家族に甲状腺の病気がある人:家系内で多発する傾向があります。
- 特定の染色体の病気がある人:ダウン症候群、ターナー症候群、クラインフェルター症候群などがある人は、橋本病を発症しやすくなります。
家族に橋本病の人がいる場合や、首の腫れに気づいた場合は、健康診断などで甲状腺の検査を受けることを相談してみるとよいでしょう。
橋本病の症状:甲状腺の腫れ
橋本病は、初めは痛みがなく、甲状腺が硬くなって大きくなる、首が膨らんだように感じるといった形で気づかれることが多い病気です。腫れた甲状腺はゴムのような感触で、こぶのように感じられることもあります。
甲状腺の働きが落ちてくると、甲状腺機能低下症の症状が現れます。
- 疲れやすい、寒さに耐えられない(寒がり)
- 体重が増える、便秘、筋肉がつる
- 顔の表情が乏しくなる、声がかすれる、話し方がゆっくりになる
- 目と顔が腫れぼったくなる、皮膚や髪が乾燥する
少数ですが、初期に甲状腺の働きが過剰になる人もいて、その場合は動悸などの甲状腺機能亢進症の症状が出ることがあります。
橋本病の経過:甲状腺の働きはどう変わるか
橋本病の人の約50%では、最初から甲状腺の働きが低下しています。残りの人のほとんどは、初めは甲状腺の働きが正常で、その後低下していきます。少数ですが、初期に甲状腺の働きが過剰になる人もいます。
つまり、橋本病と診断された時点で甲状腺の働きが正常でも、ほとんどの人は最終的に甲状腺機能低下症になります。そのため、症状がなくても定期的に血液検査を受け、甲状腺の働きの変化を確かめていくことが大切です。
甲状腺機能低下症の症状はかすかで少しずつ現れるため、年齢のせいやうつ病と思われて見過ごされることもあります。疲れや寒がり、体重の増加などが続く場合は、主治医に伝えましょう。
橋本病と一緒に起こりやすい病気
橋本病の人の一部は、ほかのホルモンの病気や自己免疫の病気をあわせもっています。
- ホルモンの病気:糖尿病、副腎の働きの低下、副甲状腺の働きの低下など
- 自己免疫の病気:悪性貧血、関節リウマチ、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなど
これらの病気の症状に気づいたときは、橋本病の治療を受けている主治医にも伝えるようにしましょう。
橋本病の検査と診断
医師は首を触って、甲状腺の腫れ、押したときの痛み、しこり(結節)がないかを確認し、血液検査で診断します。
- 甲状腺機能検査:甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(T4)の血中濃度を測り、甲状腺がどの程度働いているかを調べます。働きが過剰と疑われる場合は、T3も測ります。
- 甲状腺抗体の検査:甲状腺を攻撃する抗体があるかを血液で調べます。
- 超音波検査:甲状腺にしこりがあるように感じられる場合に行うことがあります。
甲状腺の働きが落ちると、下垂体が甲状腺を刺激しようとしてTSHが高くなります。そのため、TSHの値は治療が必要かどうかを判断する重要な手がかりになります。
橋本病の治療:甲状腺ホルモン補充療法
甲状腺機能低下症の症状があり、血液中のTSHが高くなっている場合は、通常、甲状腺ホルモンを飲み薬で補う治療を行います。
- レボチロキシン(合成T4):ホルモン補充に最も望ましいとされる薬です。少量から始め、血液検査でTSHが正常に戻るまで少しずつ量を調整します。
- 甲状腺の腫れにも有効:甲状腺ホルモンは、腫れて大きくなった甲状腺を小さくするのにも役立ちます。
- 一生続ける治療:ほとんどの人は甲状腺機能低下症になり、その後はホルモン補充を一生続ける必要があります。
高齢者では副作用が出やすいため、とくに少ない量から始めます。妊娠中は必要な量が増えるため、妊娠を考えている人や妊娠がわかった人は早めに主治医に伝えてください。
食事の注意:ヨウ素(昆布・海藻)のとりすぎ
ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料になるミネラルですが、橋本病の人がとりすぎると、かえって甲状腺の働きを低下させる原因になります。
- 控えたいもの:橋本病があり甲状腺ホルモンの補充を受けていない人は、昆布のサプリメントや海藻そのものなど、天然由来のヨウ素を多くとりすぎないようにします。
- とってよいもの:ヨウ素添加塩やヨウ素強化パンなどは、含まれるヨウ素の量が少ないため摂取できます。
- サプリメントに注意:食品だけでなく、栄養補助食品(サプリメント)からのヨウ素の過剰摂取も控えます。
海藻を日常的に多く食べる食習慣がある場合は、どのくらいの量なら問題ないかを主治医や管理栄養士に相談するとよいでしょう。
出典によって異なる点:セレンのサプリメントは役立つか
MSDマニュアル家庭版は、橋本病の治療として、甲状腺機能低下症がある場合の甲状腺ホルモン補充と、ヨウ素のとりすぎを控えることを挙げていて、セレンなどのサプリメントについては触れていません。
一方、セレンのサプリメントが橋本病に役立つという情報もあります。コクランのシステマティックレビュー(van Zuurenら、2013年)は、橋本病の人を対象にセレンの効果を調べたランダム化試験4件(463人)をまとめました。セレンで甲状腺を攻撃する抗体の値が下がった試験や、気分の改善を報告した試験はあったものの、試験の数が少なく、偏りのリスクが不明または高いものでした。生活の質やホルモン補充の量への影響はどの試験でも評価されておらず、セレンの効果を支持するとも否定するとも言えない、不十分な根拠と結論づけています。
血液検査の数値の変化が、症状や生活の質の改善につながるとは限りません。サプリメントを使う場合は、自己判断せず主治医に相談してください。
橋本病のポイント
- 橋本病は、自己免疫反応で甲状腺に慢性の炎症が起こる病気で、甲状腺機能低下症の最も一般的な原因です。
- 女性、とくに高齢の女性に多く、家系内で多発する傾向があります。
- 初めは痛みのない甲状腺の腫れとして気づかれ、ほとんどの人が最終的に甲状腺機能低下症になります。
- TSHと甲状腺ホルモンの血液検査、甲状腺抗体の検査、必要に応じて超音波検査で診断します。
- 甲状腺機能低下症の症状があってTSHが高い場合は、甲状腺ホルモンの補充を一生続けるのが一般的です。
- 昆布のサプリメントや海藻など、ヨウ素のとりすぎに注意し、セレンなどのサプリメントは主治医に相談しましょう。
橋本病についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
橋本病の原因は何ですか?
体の中でつくられた抗体が自分の甲状腺の細胞を攻撃する自己免疫反応によって起こります。なぜこの反応が起こるのかはわかっていませんが、女性に多く、家系内で多発する傾向があります。
橋本病の初期症状は?
初めは痛みがなく、甲状腺が硬く腫れて首が膨らんだように感じることが多いです。甲状腺の働きが落ちると、疲れやすさ、寒がり、体重の増加、便秘などが現れます。
橋本病と甲状腺機能低下症は同じですか?
同じではありません。橋本病は甲状腺の炎症の病気で、甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンが足りない状態です。橋本病は甲状腺機能低下症の最も一般的な原因で、ほとんどの人が最終的に甲状腺機能低下症になります。
橋本病の薬は一生飲む必要がありますか?
甲状腺機能低下症になった場合は、甲状腺ホルモンの補充を一生続けるのが一般的です。甲状腺の働きが正常なうちは、定期的な血液検査で経過をみます。
橋本病で海藻を食べてはいけませんか?
ホルモン補充を受けていない橋本病の人は、昆布のサプリメントや海藻など天然由来のヨウ素をとりすぎないようにすべきとされています。ヨウ素添加塩など含有量の少ないものは摂取できます。量の目安は主治医に相談してください。
セレンのサプリメントは効きますか?
研究では、セレンで抗体の値が下がったという報告はあるものの、試験の数が少なく質も十分でないため、効果を支持するとも否定するとも言えないとされています。使う前に主治医に相談してください。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 橋本病
- MSDマニュアル家庭版 · 甲状腺機能低下症
- van Zuuren EJ, et al. Selenium supplementation for Hashimoto's thyroiditis. Cochrane Database Syst Rev. 2013
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。

