ギランバレー症候群とは?
ギランバレー症候群は、全身の多くの末梢神経が同時に障害される病気(多発神経障害)の一つです。末梢神経は、脳や脊髄から手足や体の各部へ向かう神経で、筋肉を動かす命令や感覚の情報を伝えています。
この病気は、免疫のしくみが誤って自分の神経を攻撃する自己免疫反応によって起こると考えられています。攻撃されるのは、神経を包んで信号を速く伝える役割をもつ「髄鞘(ずいしょう)」と、情報を伝える神経の本体(軸索)の一方または両方です。
筋力の低下は通常数日から数週間かけて悪化し、その後は自然にゆっくり改善するか、ほぼ元に戻ります。治療を行えば、回復はより速くなります。
ギランバレー症候群の原因ときっかけ
ギランバレー症候群の約3分の2の人では、次のような出来事の約5日から3週間後に症状が出始めます。
- 軽い感染症(カンピロバクターという細菌による腸の感染症、伝染性単核球症、その他のウイルス感染症など)
- 手術
- 予防接種
少数ながら、ジカウイルス感染症や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した後に発症した例も報告されています。
こうしたきっかけによって免疫のしくみが働きを強め、その攻撃が誤って自分の神経に向かうことで発症すると考えられています。ただし、きっかけがはっきりしない人もいます。
ギランバレー症候群の症状
症状は通常、両脚から始まり、上へ広がって腕に達します。ときには腕や頭部から始まって下へ広がることもあります。
- 手足の力が入らない(筋力低下)。感覚の異常より筋力低下の方が目立ちます
- チクチク、ピリピリする感じ、感覚が鈍い
- 腱反射が弱くなる、または消える
筋力の低下は通常3〜4週間かけて悪化し、90%の人では発症から3〜4週間後に最も重くなります。その後は変化しないか、回復に向かいます。8週間以上悪化が続く場合は、ギランバレー症候群ではなく、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)という別の病気と考えます。
目の動きの麻痺、ふらつく歩き方、反射の消失といった一部の症状だけが現れる「ミラー・フィッシャー症候群」という型もあります。
重症化したときに起こること
ギランバレー症候群は急に悪化することがあり、次のような重い症状が起こることがあります。
- 呼吸の筋肉の筋力低下:5〜10%の人で、人工呼吸器が必要になります。
- 顔と飲み込みの筋肉の筋力低下:重症の人の半数以上でみられ、食事のときにむせる、脱水や栄養不足になるといった問題が起こります。
- 自律神経の障害:非常に重い場合は、血圧が大きく変動する、不整脈が起こる、尿が出なくなる、ひどい便秘になるといった症状が現れます。
飲み込みの筋肉が弱くなっている場合は、むせて食べものや飲みものが気管に入ってしまうおそれがあります。点滴や、胃や腸に直接栄養を送る管で栄養を補うこともあります。
すぐに受診すべきサイン
ギランバレー症候群は、急速に悪化して呼吸に関わる筋肉の働きを妨げる可能性があるため、緊急の治療が必要な病気です。次のような症状がある場合は、すぐに救急外来を受診するか救急車を呼んでください。
- 両脚の力が数日のうちに急に弱くなり、腕にも広がってくる
- 階段を上れない、立ち上がれない
- 息苦しい、息が浅い
- 飲み込みにくい、むせる、話しにくい
- 顔の筋肉が動かしにくい
- 感染症や予防接種の数日から数週間後に、手足のしびれや力の入りにくさが出てきた
適切な治療を始めるのが早いほど、よい結果が期待できます。症状からギランバレー症候群が強く疑われる場合は、検査結果を待たずに治療が始められるのが一般的です。
ギランバレー症候群の診断
通常は症状のパターンから診断の見当がつきますが、確定するために検査を行います。急に悪化するおそれがあるため、疑われた時点で入院して検査を受け、呼吸の状態が頻繁に確かめられます。
- 腰椎穿刺(髄液検査):腰に針を刺して脳と脊髄のまわりを流れる液体(髄液)を採り、調べます。
- 筋電図検査・神経伝導検査:神経や筋肉の電気的な働きを調べます。
- MRI検査:腫瘍や膿瘍による脊髄の圧迫や、脊髄の炎症(横断性脊髄炎)など、似た症状を起こす病気がないかを確かめます。
- 血液検査
髄液の中のタンパク質が増えているのに白血球はほとんど増えておらず、筋電図検査で特有の波形がみられれば、ギランバレー症候群が強く疑われます。
ギランバレー症候群の治療:免疫グロブリン療法と血漿交換
- 免疫グロブリン療法:多くの人の血液から集めた抗体を含む製剤を、早い段階で点滴します。1〜2日、または5日かけて投与します。
- 血漿交換:血液から、神経を攻撃する抗体などの有害な物質を取り除く治療です。状態が急速に悪化している場合は、できるだけ早く行うのが一般的です。ただし、太い静脈に管を入れて大量の血液を出し入れするため、血圧が下がる、感染のリスクが高まるといった問題が起こることがあります。
これらの治療は、入院期間を短くし、回復を速め、死亡や永続的な障害のリスクを減らします。血漿交換をすると血液中の免疫グロブリンも取り除かれてしまうため、二つを同時には行わず、免疫グロブリン療法の後に血漿交換を行う場合は少なくとも2〜3日あけます。
入院中は、必要なときにすぐ人工呼吸器で呼吸を助けられるよう、綿密に見守ります。なお、ステロイド薬は役に立たず、症状を悪化させることがあるとされています。
リハビリと回復の見通し
筋力が落ちて動けない状態が続くと、床ずれや、筋肉が硬く縮んで元に戻らなくなる「拘縮」などが起こりやすくなります。そのため、柔らかいマットレスを使い、筋力の低下が重い場合は2時間ごとに体の向きを変えるといった予防が行われます。
関節と筋肉の働きを保ち、歩く力を維持するために、早くから理学療法を始めます。最初は理学療法士が手足を動かす運動から始め、筋力が戻ってきたら自分で手足を動かす運動に進みます。温熱療法が理学療法を行いやすくするために使われることもあります。
- 神経の障害の進行は8週間以内に止まります
- 多くの人は、治療を受けなくても数か月かけてゆっくり回復します。早く治療を始めると、数日から数週間で回復することもあります
- 成人の約30%では、発症から3年後も筋力の低下が残ります(子どもではその割合がさらに高くなります)
- 平均的な死亡率は2%未満です
- 最初に回復した後、3〜10%の人が慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)を発症します
出典によって異なる点:免疫グロブリンと血漿交換のどちらがよいか
MSDマニュアル家庭版は、ギランバレー症候群でまず選ぶべき治療は早い段階での免疫グロブリン療法で、効果がなければ血漿交換が役立つことがあるとしています。一方で、状態が急速に悪化している場合は、できるだけ速やかに血漿交換を行うのが一般的だとも説明しています。
コクランのシステマティックレビュー(Hughesら、2014年)は、免疫グロブリン療法に関する12件の試験をまとめました。重症の患者623人で免疫グロブリン療法と血漿交換を比べた7件では、4週間後の障害の改善に差はなく、その他の評価項目でも統計的な差はありませんでした。副作用の頻度にも差はありませんでしたが、免疫グロブリン療法の方が、最後まで治療を受けられた人がはっきり多くなっていました。血漿交換の後に免疫グロブリン療法を追加しても、意味のある上乗せ効果は確認されませんでした。
レビューは、重症の場合、発症から2週間以内に始めた免疫グロブリン療法は血漿交換と同じくらい回復を速めるとしています。効果は同程度で、続けやすさの点で免疫グロブリン療法が選ばれやすい、と読むことができます。
ギランバレー症候群のポイント
- ギランバレー症候群は、免疫のしくみが末梢神経を攻撃し、手足の筋力が急に低下する病気です。
- 約3分の2の人では、軽い感染症、手術、予防接種などの5日から3週間後に症状が始まります。
- 筋力の低下は通常両脚から始まって上へ広がり、3〜4週間でピークになります。呼吸や飲み込みの筋肉が弱くなることもあります。
- 急に悪化する可能性があるため、疑われたらすぐに入院して治療を受ける必要があります。
- 免疫グロブリン療法や血漿交換で回復が速まり、研究では両者の効果は同程度でした。ステロイド薬は役に立たないとされています。
- 多くの人は回復しますが、成人の約30%では3年後も筋力の低下が残るため、リハビリが大切です。
ギランバレー症候群についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
ギランバレー症候群の原因は何ですか?
免疫のしくみが誤って自分の末梢神経を攻撃する自己免疫反応によって起こると考えられています。約3分の2の人では、軽い感染症(カンピロバクター感染症やウイルス感染症など)、手術、予防接種の5日から3週間後に症状が出始めます。
初期症状にはどんなものがありますか?
多くは両脚の力が入りにくくなることから始まり、チクチク、ピリピリする感じを伴うことがあります。筋力の低下は数日から数週間で上へ広がり、腕にも及びます。腱反射が弱くなるか消えるのも特徴です。
ギランバレー症候群はうつりますか?
感染症がきっかけになることはありますが、ギランバレー症候群そのものは自己免疫反応による病気です。
どんな治療をしますか?
入院して呼吸の状態を見守りながら、免疫グロブリン療法や血漿交換を行います。これらは回復を速め、死亡や永続的な障害のリスクを減らします。ステロイド薬は役に立たないとされています。
後遺症は残りますか?
多くの人は数か月かけて回復しますが、成人の約30%では発症から3年後も筋力の低下が残ります。早くから理学療法を行い、関節や筋肉の働きと歩く力を保つことが大切です。
再発することはありますか?
最初に回復した後、3〜10%の人が慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)という病気を発症するとされています。回復後に再び筋力の低下が出てきた場合は、早めに主治医に相談してください。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · ギラン・バレー症候群(GBS)
- Hughes RAC, Swan AV, van Doorn PA. Intravenous immunoglobulin for Guillain-Barré syndrome. Cochrane Database Syst Rev. 2014
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。
