誤嚥性肺炎とは?
口の中から気道へ、小さな粒子が少しずつ流れ込んだり、吸い込まれたりすること(誤嚥)は、実はよく起こっています。ふつうは、せきなどの体の防御の働きで、肺に入って炎症や感染を起こす前に取り除かれます。
しかし、この防御の働きが弱っていたり、誤嚥する量が多かったりすると、肺に炎症や感染が起こります。口やのどから吸い込まれたものには細菌が含まれていることが多く、細菌による肺炎(誤嚥性肺炎)の原因になります。
胃の内容物には多くの酸が含まれているため、胃の内容物を吸い込んだ場合は、感染よりも化学的な刺激による肺の炎症(化学性肺炎)が起こることがあります。
飲み込み(嚥下)のしくみ
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、人が物を食べるときは、まず口の中でかみ砕いて飲み込みやすい形にし(咀嚼)、次に飲み込む動作(嚥下)をします。嚥下には段階があります。
- 口腔期:舌などの動きで、食べものを口の奥へ送り込みます。
- 咽頭期:のどに入ってきた食べものを飲み込みます。いったん始まると、自分で止めることはできません。
- 食道期:食べものが食道に入り、胃へ運ばれます。
うまく飲み込めない状態を嚥下障害といい、どの段階の異常でも起こります。とくにのど(咽頭期)の異常では、食べものが気管に入って誤嚥性肺炎を起こすことがあり、注意が必要です。
誤嚥性肺炎になりやすい人
- 体が弱っている人
- 飲み込みに問題がある人(脳卒中の後などに起こりやすい)
- アルコールに酔っている人や、薬物などによる中毒がある人
- 麻酔薬や鎮静薬、病気のために意識がない人
- 嘔吐している人
- 歯、呼吸器、消化管の検査や処置を受けた人
- 胃食道逆流症のある人
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、嚥下障害の原因として最も多いのは、老化に伴う飲み込む力の低下です。脳梗塞などの脳の血管の病気も多い原因ですが、こちらは比較的自然に回復することが期待できる場合が多いとされています。一部の神経や筋肉の病気でも、嚥下障害が起こります。
誤嚥性肺炎の症状
誤嚥性肺炎の症状は、誤嚥してから1〜2日以上たたないと現れません。
- せきとたん:最もよくみられる症状で、粘り気が強かったり色が変わったりしたたんがからみ、ときに悪臭がします。
- 息切れ:呼吸が苦しくなります。
- 胸の不快感
高齢者では、典型的な症状がはっきりしないこともあります。食事中や食後にむせる、声がかすれる、なんとなく元気がないといった変化にも気を配りましょう。
化学性肺炎との違い
化学性肺炎は、胃酸などの有害な物質を吸い込んだときに起こる肺の炎症で、感染よりも刺激が原因です。
- 原因:最も多いのは胃酸で、嘔吐物を吸い込んだ場合に起こります。下剤用の油や、ガソリン・灯油などの石油製品を吸い込んだ場合にも起こります。
- 症状:数分から数時間のうちに、突然の息切れやせきが現れます。発熱や、ピンク色がかった泡状のたんがみられることもあります。
- 治療:酸素療法や、必要に応じて人工呼吸器による一時的な呼吸の補助を行います。
化学性肺炎には抗菌薬は通常効きませんが、細菌による誤嚥性肺炎と区別するのが難しく、合併することも多いため、抗菌薬が使われることもあります。
誤嚥性肺炎の診断と治療
- 診断:誤嚥のリスクがある人に症状がみられる場合に誤嚥性肺炎が疑われ、胸部X線検査で確定します。誤嚥したものがたどり着きやすい肺の下の方などに異常がみられると、誤嚥が原因である可能性が高まります。
- 抗菌薬:誤嚥性肺炎の治療には、抗菌薬を使います。
- 呼吸の補助:酸素療法や、人工呼吸器による一時的な補助が必要になることもあります。
肺炎が治った後も、誤嚥のもとになっている飲み込みの問題が残っていれば、再びくり返すおそれがあります。飲み込みの状態を調べて、再発を防ぐ対策を立てることが大切です。
飲み込みの検査とリハビリテーション
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は、嚥下障害の治療で大切なのは、まず内視鏡検査やX線を使った嚥下造影検査で飲み込みの状態を診断し、それに基づいてリハビリテーションや手術などの治療方針を立てることだとしています。
- 間接嚥下訓練:食べものを使わずに、口やのどの筋肉を鍛える訓練です。
- 直接嚥下訓練:ゼリーなどを使って、実際に飲み込む練習をする訓練です。
- 手術:飲み込みやすくするための手術や、誤嚥を防ぐための手術があります。
リハビリテーションを実際に指導するのは言語聴覚士で、治療計画は専門的な知識をもった耳鼻咽喉科などの医師が立てます。嚥下には口、のど、喉頭が関わるため、嚥下障害の診断や治療が必要な場合は、耳鼻咽喉科を受診することがすすめられています。
誤嚥性肺炎を防ぐために
- ベッドの頭側を上げる:ベッドの頭側をやや上げることで、食べものや飲みもの、胃酸が胃からのどに上がって肺に入るのを防ぎます。
- 眠くなる薬を見直す:誤嚥のリスクを高める病気のある人では、医師が鎮静作用のある薬を中止したり減らしたりします。
- 飲み込みに合わせた食事:言語聴覚士などと相談し、飲み込みの状態に合った食べものの形や食べ方を工夫します。
- 食事の介助に注意する:飲み込みが難しい人の食事では、のどを詰まらせないよう十分に注意して介助します。
食事中にむせることが増えた、食べるのに時間がかかるようになったなどの変化があれば、早めに医師に相談しましょう。
出典によって異なる点:口腔ケアで肺炎は防げるか
MSDマニュアル家庭版は、誤嚥性肺炎の予防として、ベッドの頭側を上げることや鎮静作用のある薬の見直しを挙げていますが、口の中の清潔を保つケア(口腔ケア)については触れていません。
コクランのシステマティックレビュー(Liuら、2018年)は、介護施設の入居者を対象に、専門職による口腔ケアと通常の口腔ケアを比べた4件のランダム化試験(3,905人)をまとめました。肺炎の発生が減るかどうかははっきりしませんでしたが、2件の研究からは、専門職による口腔ケアで24か月間の肺炎による死亡が減る可能性が示されました。ただし、いずれの試験も偏りのリスクが高く、根拠の質は低いと評価されています。
口腔ケアに肺炎を防ぐ効果があるかは、まだ確かな結論が出ていません。口腔ケアに加えて、飲み込みの評価やリハビリ、食事の姿勢の工夫などを組み合わせることが大切です。
誤嚥性肺炎のポイント
- 誤嚥性肺炎は、口やのどの分泌物、食べもの、胃の内容物などが肺に入り込んで起こる肺炎です。
- 飲み込みに問題がある人、脳卒中の後の人、体が弱っている人、意識がはっきりしない人などに多くみられます。
- 嚥下障害の最も多い原因は、老化に伴う飲み込む力の低下です。
- たんのからむせき、息切れ、胸の不快感などが、誤嚥の1〜2日後から現れます。
- 抗菌薬で治療し、飲み込みの状態を内視鏡やX線で調べて再発を防ぐ対策を立てます。
- 言語聴覚士による飲み込みのリハビリや、ベッドの頭側を上げることが予防に役立ちます。
誤嚥性肺炎についてよくある質問
回答は一般的な情報であり、診察や医師による個別の判断に代わるものではありません。
誤嚥性肺炎の原因は何ですか?
口やのどの分泌物、食べもの、胃の内容物などが気管から肺に入り込み、含まれている細菌などで肺に炎症や感染が起こることが原因です。飲み込む力が弱くなっている人に多くみられます。
誤嚥性肺炎の症状は?
たんのからむせき(ときに悪臭のあるたん)、息切れ、胸の不快感などで、誤嚥してから1〜2日以上たってから現れます。
誤嚥性肺炎になりやすいのはどんな人ですか?
飲み込みに問題がある人(脳卒中の後など)、体が弱っている人、意識がはっきりしない人、嘔吐している人、胃食道逆流症のある人などです。嚥下障害は老化に伴う飲み込む力の低下で最も多く起こります。
飲み込みのリハビリはどのようなものですか?
口やのどの筋肉を鍛える間接嚥下訓練と、ゼリーなどを使って実際に飲み込む練習をする直接嚥下訓練があります。言語聴覚士が指導し、医師が治療計画を立てます。
誤嚥性肺炎を防ぐにはどうすればよいですか?
ベッドの頭側をやや上げる、眠くなる薬を見直す、飲み込みに合った食事にする、食事の介助に注意するといった方法があります。飲み込みの状態を検査で確かめることも大切です。
口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防に効きますか?
研究では、専門職による口腔ケアで肺炎による死亡が減る可能性が示されていますが、肺炎の発生が減るかははっきりしておらず、根拠の質も低いとされています。
出典
- MSDマニュアル家庭版 · 誤嚥性肺炎と化学性肺炎
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 · 音声・言語・嚥下の異常
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 · 嚥下
- Liu C, et al. Oral care measures for preventing nursing home-acquired pneumonia. Cochrane Database Syst Rev. 2018
このガイドは一般的な情報であり、医師の判断に代わるものではありません。診断と治療は、診察と病歴によって決まります。緊急の場合は119番(スペインでは112番)に電話してください。
